精子の数や運動率だけでは不十分、DNAの状態を確認することが重要...①

エス・セットクリニック 佐々木豊和先生のお話

2019年1月発行『i-wish ママになりたい 男性不妊の検査と治療』

エス・セットクリニック
佐々木豊和先生


エスセットクリニックは男性不妊の検査や治療に特化した男性不妊専門のクリニックです。

 その特徴は、基本的な精子検査だけでなく、精子のDNAの状態までがわかる高精度な精子検査を実施していることです。そして、精子検査の結果に基づいた男性不妊の治療を行っています。今回は、この男性不妊治療をリードする佐々木先生に男性不妊の現状を詳しくうかがいました。


男性不妊に対する認知・関心は確実に高まっている

■男性不妊は増えていますか?

 男性不妊科の諸先生方の地道な啓蒙活動やマスコミで男性不妊について取り上げられるようになって来たこともあり、最近患者様が増えていると実感しています。

 結婚前に一度ちゃんと調べておこうとブライダルチェックにこられたり、精液検査を受けた結果、数値が悪かったからという理由などで自発的に来院される方やレディースクリニックからの紹介で来たという方も多くいらっしゃいます。また、奥様は不妊治療を受けていなくても、自分に問題があるのではないかと来院する方も増えてきました。概してはっきりとした自覚症状はないけれど、なかなか妊娠しないから、「もしかしたら自分に原因があるのでは?」と思われるようです。一方で、自覚症状を感じて来られる方もいます。

 軽い勃起障害だったり、性欲の低下を訴えていたり、陰嚢の痛みがあって来院する方もいます。いずれにせよ、男性の意識が変わってきたのでしょう。

 診察は、平日のほうが余裕はあるのですが、お仕事をされている多くの皆さんは、週末を利用して来院されます。

 以前は、週末も医師一人体制でしたが、患者さまの増加とともに混雑するようになりました。待ち時間を何とか減らせるようにと考え、週末は体制強化し医師二人にて診療に当たっております。


奥様に連れられてくる人は減り、自発的に来院する男性が増加 

■来院する男性の年齢などは?

来院される男性の年齢は20~50代とかなり幅広いですが、特に多いのは30~40代ですね。晩婚化の影響か、ご夫婦で不妊に悩まれている方がかなり多いと感じます。関東近郊から来院される方が主ですが、遠方からお見えになる方もいますね。

 基本的にはご夫婦そろっての来院をお勧めしていますが、初回はご主人ひとりで検査に来られることもあります。その場合、検査結果を伝えるときに夫婦で聞いて欲しいと判断すれば「ぜひ奥様とご一緒にいらしてください」とお声がけしています。

 二人目不妊の場合、お子様連れで来院されるのをためらう方もいますが、手術の合間など、他の患者様がいない時間帯に予約をお取りすることで余計なお気疲れのないように心がけております。

 現在、半数くらいはご夫婦で来院されています。 以前は奥様主導でご主人はあまり積極的ではないとお見受けする方もいらっしゃいましたが、今はそういう方はほとんどいません。

 こういう点からも以前との違いを感じます。


どの検査を受けたらいいかわからなければ相談して

■検査や治療の流れ

当院にいらっしゃる患者様は、ホームページを見て、『自分はこの検査がしたい』と決めてくる方が多いです。例えばすでに高度不妊治療を受けている方が、高精度精子検査を受けたいと希望されて来院されています。

 ただ、当院で初めて治療を受ける方は、基本的な精子検査からのスタートが多いです。

 もちろん、これまでの治療歴によって検査や治療は異なりますので、検査方法はホームページを参考にして決めて頂ければと思います。検査内容についての説明はお電話でもしておりますので、その際に決めていただくこともできます。もちろん、受診の際に医師とご相談して決めることもできます。

 初診では問診をして、食事や運動、喫煙など生活習慣で改善が必要なことはアドバイスしています。 

 また、AGA治療薬等、男性不妊に影響がある内服薬がないかどうかのチェックも行います。

精子検査においては院内の採精室で採精をしていただきます。基本精子検査の場合は2~3時間で結果報告書が完成、高精度精子検査は2週間後に結果説明となります。


動画で見れば一目瞭然、検査で精子のダメージ具合もわかる

■精子検査の特徴は?

当院の基本精子検査では、精子数や濃度、運動率の他、精子に特殊な染色を行ない精子頭部の状態をチェックします。これにより精子のダメージをある程度推測できます。また、精子の状態を動画で供覧し、良好精子と比較することで自分の精子の状態を客観的に把握することが出来ます。

 実は精子数や精子運動率のみで精子を判断することは困難です。例えば精子数が1億匹、運動率50%と下限基準値を大幅にクリアしていたとしても、いわゆる高速直進するエリート精子がいなければ妊娠にたどり着かない可能性が高いと考えられます。顕微授精を予定しているご夫婦が、「精子が1匹いれば大丈夫なのですよね?」と時々質問をお受けします。確かに最終的には非常に良好な精子が1匹いればいいわけですが、そのようなケースはごく稀なのです。

 また、女性側に大きな問題がなく、男性不妊が主な不妊の原因であるケースにおいては、運動精子数に応じた不妊治療をお勧めしているクリニックが大多数と思います。例えば運動精子1000万以上であればタイミング療法や人工授精を推奨、100万なら顕微授精を選択と単純に運動精子数で決定しがちです。しかし、精子数が少ない、運動率が低いということは運動精子にもDNA損傷を来すようなダメージが蓄積されている可能性が高く、そのようなケースでは不妊治療の成功率も決して高いとは言えません。

 以上の理由から、特に高度不妊治療を受ける患者様には、今後の不妊治療の成功率を予測する意味においても精子DNA損傷程度を明らかにする高度精子検査を強くお勧めしています。 

 何が悪いのかわからないままに顕微授精を繰り返して結局妊娠せずに病院を転々とする方もいますが、これでは先が見えず、不安を感じるでしょう。残念ながら不妊治療を行ったすべての方に子供が授かるわけではありません。であるならば、原因がわかったうえで治療にあたるほうが、たとえ妊娠にいたらなかったとしても納得がいくのではないでしょうか。


精子の数や運動率だけでは不十分、DNAの状態を確認することが重要...②


エス・セットクリニック 佐々木豊和先生のお話

2019年1月発行『i-wish ママになりたい 男性不妊の検査と治療