妊娠、そして出産時も質の高い生活を迎えられるよう不妊治療を進めたいですね。

小川クリニック 小川隆吉先生のお話

2019年4月発行『i-wish ママになりたい 不妊治療と排卵誘発』

小川クリニック
小川隆吉院長


人工授精の治療で一番の心配なのは多胎妊娠です。

誘発剤の反応が良すぎる場合、多胎を避ける意味で治療をキャンセルすることもあります。


不妊治療のなかで、排卵誘発は治療のカギといわれていました。それは、体外受精がまだ行われていない頃にさかのぼります。

 妊娠しづらい方に排卵誘発剤を使うことは、卵胞を育て、排卵を促すためのものです。自然の排卵では1つの卵子の排卵されるのに対し、複数の排卵が起こり、そのために精子との受精チャンスも増え、妊娠の可能性が高くなるというものでした。

 ただ、それには多胎の発生が問題となり、一時は三つ子五つ子など、健康的に育つためには母子ともに危険を伴う状況が増え、産科婦人科の医療が疲弊した経緯があります。

 体外受精でも妊娠率を高めるために移植胚を増やして、同じ状況が起きました。

 今では学会会告などの成果もあり、体外受精における移植胚は原則1個。人工授精においても超音波診断装置・エコー検査で多くの卵胞が育ちすぎた場合には、人工授精そのものをキャンセルすることで、多胎の発生を防いでいます。

 しかし人工授精は、体外受精の単一胚移植ほどの調整ができないことから若干多くなると思います。そこが最大の注意点となります。


患者さんの治療への思いと方法の選択

人工授精を行う場合にも、以前は「1年は待ちましょう。タイミング法で様子を見て行いましょう」ということで、タイミング療法で妊娠できなかったらクロミフェンやhMGを使って人工授精を行っていた時期もありましたが、今は次の段階に体外受精があることや高年齢の方が多く、時間的なことを考え、早めに人工授精を行うようになってきました。

 とは言っても検査結果によっては、タイミング療法で妊娠可能な人もいますし、人工授精は嫌だからタイミング療法を続けたいというご夫婦もいます。なるべく自然に自分たちの力で妊娠したいと思い願う夫婦は多いです。そのためタイミング療法を大事にしながら、人工授精を行いますが、その翌日にできるだけ夫婦生活を持っていただくようにしています。そうすることで、妊娠したときには、人工授精でなく自分たちの性行為で妊娠した可能性もあり、その後の夫婦生活や夫婦関係の自信にもつながるわけです。

 それで、何度か人工授精をやってみて結果が出ないときには、早めにART施設を紹介します。ただ、中には、かなり早い段階から体外受精を希望する方もいれば、人工授精までの治療にこだわり続ける方もいます。

 医師として言えることは、本当の治療の適合性という部分で、できるだけ説明を明確にすることが課題だということです。


一番大切なこと

治療にはそれぞれメリットとデメリットがあります。現在の傾向として、確実性が高いとの考えから、早めに体外受精を選択希望される方も多いようです。

 体外受精のデメリットとしては、胎盤の異常が多くなることや顕微授精後に生まれた男性には不妊症の方が多いなどのことが言われていますが、今後も注意深く予後は見ていく必要があるでしょう。

 もっとも、どのような方法で妊娠したとしても、私が一番大切に思うことは、妊娠中は出産やその後に続く育児を考えて、生活をおくって欲しいということです。妊娠中の健やかな生活。出産時の良質な環境。そして楽しめる育児。そこに力を注ぐことが大切な時代かと考えます。


小川クリニック 小川隆吉先生のお話

2019年4月発行『i-wish ママになりたい 不妊治療と排卵誘発