自然周期は、薬の使い方のことだけではなく、特性をよく理解して卵巣機能に添い、LH値を読む力があること、そして緊急採卵に対応する態勢を整えていることが必要です。...①

おち夢クリニック 越知正憲先生のお話

2019年4月発行『i-wish ママになりたい 不妊治療と排卵誘発』

おち夢クリニック
越知正憲院長


自然周期法は、クロミフェンの使い方やレトロゾールの使い方だけを言うのではありません。

患者さんの卵巣機能と月経周期に寄り添って、細やかに診て、ホルモンの変化を読む。

そうしたことが重要なのです。


おち夢クリニック名古屋は、自然の妊娠をお手本にした不妊治療を行っています。そのため排卵誘発においても、患者さん一人ひとりがどれだけ卵子を育てる力を持っているかを見極め、その力に応じて足りない分だけを医療で補う自然周期法を行っています。

 この「足りないところを医療で補い、必要な分を医療で助ける」という方法は、越知先生が常々話していることです。

 それは、医療だからといって、自然の営みの中で起こる妊娠を本来の姿から遠ざけてしまえば、逆に妊娠しづらくなってしまうこと。今行っている治療だけでなく、次回の妊娠と出産のため、また、将来に渡る女性としての健康のためにも大切なことだと考えているからです。

 ただ、一部では自然周期法での排卵誘発が日本の体外受精の妊娠率を下げる要因になっていると言う人もいます。さて、なにが考えられるのでしょう。

 越知先生に詳しくうかがいました。


卵子は数?それとも質?

妊娠の要は、卵子の質にあるとよくいわれますが、この卵子の質は染色体異常がないことや、または卵子の生命力の強さと表現されています。自然な月経周期の中で排卵される卵子であっても約25%に染色体異常が起こっているといわれ、この発生率はとくに30代後半ぐらいから上がってきます。

 そして、40歳くらいからは卵巣機能も低下し、卵胞を育てることがだんだん難しくなってきます。こうした状況で卵巣を強く刺激すれば、それがきっかけとなって卵巣機能の低下が加速してしまうケースもあるでしょう。そうなった場合には、次にいくら排卵誘発剤を使っても、卵巣は思うように反応してくれなくなってしまいます。

 みなさんは、それでも卵巣を強く刺激して多くの卵子を得るほうがいいのでしょうか? 多くの卵子を得ることで、卵巣機能をさらに低下させてしまうかもしれない…。それは患者さんのためになることなのでしょうか。

 卵子の数がたくさんあっても、質の良い卵子でなければ赤ちゃんにはつながりません。卵子は、数ではなく、良い質であることが重要なのです。

 体外受精の場合、卵子と精子の出会いが体外環境になるため、確実に卵子が得られるようにします。しかし、医療として助けるべきは、排卵誘発剤をたくさん使って卵子を得ることではなく、質の良い、赤ちゃんにつながる卵子を育てること。ですから、患者さんそれぞれの卵子を育てる力の足りない分を補ってあげればいいのです。


薬を使わない方法だと卵子は1個なの?

 本来、女性は自然な月経周期で排卵されてくる1個の卵子で妊娠し、出産できる力を持っています。しかし、これまでの体外受精の歴史から、1回の採卵手術で得た複数の卵子で、複数回の妊娠ができることがわかっています。つまり、1回の月経周期中に排卵に至る卵子以外にも赤ちゃんにつながる卵子があるということになります。

 そこでみなさん、「だったら、卵巣は強く刺激して、多くの卵子を得たほうがいいんじゃないの?」 と考えることでしょう。

 私たちのクリニックでは、37歳以下の女性で月経周期が26~35日の人を対象に薬を全く使わない完全自然周期の体外受精を行っています。   

 排卵誘発剤を使わないため、排卵が予定される卵胞(主席卵胞)から卵子を採取するのが基本です。そのため、採卵できる数は基本的に1個になります。しかし、実際には、排卵が予定されていた卵胞以外の小さな卵胞からも成熟卵子を得ることがあります(表1)。

 ただしそれには、小さな卵胞にも刺すことができる細い針と熟練した高い技術が必要です。

 私たちのクリニックでは、この針を独自に開発して採卵手術に使用し、採卵手術を行う医師はトレーニングを積み、高い技術を習得したものが担当します。


自然周期でも複数の卵子が得られる?

 私たちのクリニックでは、主にAMH値とFSH値、そして年齢から大きく3つのグループに分け、5つの排卵誘発方法で対応しています。ただ、5つの方法も、それぞれ画一的ではなく、人それぞれの状況に応じた細かな調整をしながら進めています。

 クロミフェン自然周期、レトロゾール単独、また併用自然周期であっても複数の卵子が得られることは珍しくありません。特にレトロゾールを使った周期では、通常なら採卵をしない4~5ミリの小さな卵胞からも成熟卵子が得られることがあります。割合からすれば、卵胞サイズが小さければ未熟な卵子が多くなりますが、なかには受精可能な状態の卵子も少なくありません。これら小さな卵胞を含むすべての卵胞から採卵することで、さらに多くの数の卵子を得ることができます。

 ですから、自然周期だから卵子の数が少ないというわけではないのです。


自然周期は、薬の使い方のことだけではなく、特性をよく理解して卵巣機能に添い、LH値を読む力があること、そして緊急採卵に対応する態勢を整えていることが必要です。...②


おち夢クリニック 越知正憲先生のお話

2019年4月発行『i-wish ママになりたい 不妊治療と排卵誘発